序章:はじめに
私は以前、葬儀社に勤めていました。その際に強く感じていたのですが、一つの事柄においてお寺さんによって内容が違う事がしばしばありました。もちろん宗派によっての違いもあるのでしょうが、同じ宗派でも僧侶によって解釈が違うのです。また、先輩から教わることも人によって解釈がコロコロ変わるのです。他業種から転職した身としては、とても強い違和感を感じていました。後に分かってきたのですが、葬送習俗は地区が山一つ越えただけで大きく違うことが珍しくありません。葬儀社の社長さんはもちろん新入社員に至るまで、喪家様側から見れば葬儀社に係わる全員が「お葬式」のプロフェッショナルと思われて当然です。現在、葬儀社のバイブルといえば「葬儀概論」ですが、タイトル通り「概論」のため細部に至るまで解説が十二分になされているわけではありません。しかしながらこの葬儀概論でさえディレクター試験の取得後に、熱心に読み返して勉強している方はごく少数と言わざるを得ません。私が新入社員のころにベテラン社員は葬儀をスムーズに施行するテクニックには詳しかったのですが、奥深い意味に関してはあまり知識が無かったように思われました。例えばお寺さんによってそれぞれ違う作法の道具や次第は詳しいのに、「焼香」にはどんな意味があるのか?との問いには納得できる回答が聞けずに要領を得ませんでした。
葬法や葬具、供物等にはそれぞれ深い意味があり、そのひとつひとつに願いや祈りが込められています。宗教や宗旨の違いを超えた日本特有の葬送儀礼は、まさに今、世界から注目を浴びる「日本人論」の根底にある道徳観の柱とも言える、先祖供養をかたちに表したものです。現在、葬儀の担当者が喪家様にどのくらいのことを説明しているでしょう。忙しさを理由にほとんど説明できていないのではないでしょうか?また、それを見てきた新入社員たちは、さらに意味を知らずに葬儀を施行していませんか?喪家様から質問されたら慌ててインターネットで調べたデタラメな内容をお答えして知ったかぶりに終始していることでしょう。興味本位で断片的な「面白雑学」的な取り上げ方はされていても、私の知る限り宗教民俗学(葬送習俗)の内容で、ネット上に本格的な解説をしたサイトは無いように見受けられます。
近年拡大の一途をたどる一般消費者の直葬志向は、まさに葬儀の意味や儀式に込められた思いの大切さを継承し説明してこなかったことが大きな原因の一つであることは間違いありません。以前ならば葬儀に詳しい自治会長さんが、どの町内にも必ずと言っていいほどいたものですが、家族葬ではその必要もなくなりました。遠い昔には「とうや(頭家・当家・祷家)」と呼ばれる村の重鎮がすべてを取り仕切り、喪家や村人に役割指示を出し、導いてくれていました。(この「とうや」が儀式の多様化に寄与する事例は今後解説いたしたいと考えています)以前は見事に葬儀における様々な行為や作法の大切さが継承されてきたのです。今、その役目を葬儀社が担わずに誰が説明するというのでしょう。お坊さんとて仏教儀式だけで、しかも自分の宗派以外のことは全く分かっていないのが現状です。
ずいぶん以前から「これからは心の豊かな時代に」と言われ続けてきましたが、現在さらに逆行しているようです。葬儀に関しても「モノ葬儀からコト葬儀に」と言われてきましたが、「葬儀ナシ」に向かってすでに危機的状態と言っても過言ではないでしょう。葬儀社の方々へ、いまこそ日本人が古来から大事にしてきた道徳観や意味事が、ギッシリ詰まった「日本人のお葬式」をしっかりと喪家様にご説明してみませんか?その理解と納得が必ずや葬儀の満足度となり、プロフェッショナルが揃っている葬儀社として地域の信頼を得て、業績向上につながることは間違いありません。意味事は価格の高低に左右されません。しかしながら意味事を大事にする喪家様が直葬を選ぶはずはありません。つぎのリピートのためはもちろん、事前相談やセミナーでプロ集団をアピールできる葬儀社づくりに繋がることでしょう。いや、葬儀社や宗教者を当てにする時代はすでに過ぎ去ったのかもしれません。終活セミナーと称して多くの高齢者の方々が葬儀を学ぶ時代です。ご興味がおありの方へ、このブログが少しでもお役に立てれば幸いに存じます。
柿本明兼

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